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名古屋地方裁判所 昭和32年(ワ)5号 判決

原告 国

訴訟代理人 宇佐美初男 外一名

被告 鈴木藤一

主文

被告は原告に対し、別紙目録記載の土地を明渡さなければならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告において金参万円の担保を供するときは、第一項に限り、仮に、執行することができる。

事実

第一双方の申立

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決と仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求めた。

第二原告の主張

(一)  別紙目録記載の土地(以下本件土地という)は原告の所有である。すなわち

(1)  本件土地は旧自作農創設特別措置法第十六条により昭和二十二年三月三十一日国から被告に売渡された農地であつて、農地法第三条第二項第六号に規定する農地である。

(2)  被告は、昭和二十九年六月頃、所轄愛知県知事の許可をうけることなく、被告の世帯員でない渡辺正之丞に右土地の占有を移転し、渡辺においては右土地の耕作をするようになつた。

(3)  そこで原告国の機関である愛知県知事は、昭和三十年六月上旬、農地法第十五条に基いて本件土地の買収令書を被告に交付したが、被告が受領を拒んだので同年六月二十一日農地法第十一条第二項によつて公告し、同月二十九日同法第十二条により算出した対価を名古屋法務局豊橋支局に供託し、ここに原告は本件土地の所有権を取得した。

(二)  被告は、昭和三十年六月、前記渡辺から本件土地の返還を受け爾来これを占有している。

よつて、原告は、所有権に基いて本件土地の明渡を求める。

第三被告の主張

(一)  本件土地が原告の所有であることは否認するが、被告が右土地を占有している事実は認める。

(二)  原告の主張(一)(1) の事実は認める。同(2) (3) の事実は否認する。

(三)  右のとおり、被告は渡辺正之丞に本件土地の占有を移転したことはなく従つて渡辺が右土地を耕作した事実はないのであるが、仮に右の事実が存するとしても、被告は昭和二十九年十一月自己において耕作するため渡辺より右土地の返還をうけて原状に回復した。本件の買収手続はその後において開始されたものであるから権利の濫用であつて無効である。

第四証拠〈省略〉

理由

本件土地が旧自作農創設特別措置法第十六条の規定により昭和二十二年三月三十一日国から被告に売渡された農地であつて農地法第三条第二項第六号に規定する農地であることは当事者間に争いがないそして成立に争いのない甲第六号証、証人渡辺正之丞、同城処富市、同酒井佐一郎の各証言と証人城処の証言により成立の認められる甲第七号証によれば「被告が所轄愛知県知事の許可をうけないで昭和二十九年四月頃本件土地を被告の世帯員以外の第三者である渡辺正之丞に売渡し渡辺において同年六月二十七日頃被告から右土地の引渡をうけこれを耕作の用に供した」事実を認めることができる。

被告本人訊問の結果中これに反する部分は採用できないし、他に右の認定を覆すに足りる証拠はない。

成立に争いのない甲第一号証の一、二同第二、三号証同第四号証の一、二同第五号証の一から三によれば、原告が右の事実に基き農地法第十五条に則つて原告の主張(一)(3) 記載のように本件土地の買収手続を了した事実を認めることができる。被告は被告の主張(三)の事実を主張して本件の買収手続は権利の濫用であつて無効であると主張するが、渡辺が前記のように本件土地を耕作に供した事実がある以上原告は農地法第十五条第一項により右土地を買収する権利を取得するのであつて、たとい、被告が渡辺から右土地の返還をうけた後に買収手続が開始されたとしてもそのことの故に本件買収処分が権利の濫用により無効になると解することはできないので被告の右主張は理由がなく、他に右の買収手続が違法になされたことについての主張立証はない。

以上の事実によれば、原告は農地法第十五条により本件土地の所有権を取得したものと認めることができ、被告が右土地を占有していることは当事者間に争いがないから、所有権に基き被告に対し本件土地の明渡を求める原告の本訴請求は理由がある。

よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴)法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 栗山忍)

物件目録〈省略〉

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